2006年9月以前に建てられた木造住宅には、アスベスト（石綿）が潜んでいる可能性があります。もともとアスベストは耐火性や耐久性が高いことから、外壁や屋根の建材として用いられてきました。
しかし、現在は健康被害のリスクがあることから全面的に使用されていません。また、アスベストの事前調査は、解体・リフォームの際に必要になるため、使用箇所や調査方法を確認しておくとスムーズです。
この記事では、木造一戸建てのアスベストに関する基礎知識や使用箇所、調査方法を解説します。
【この記事で分かること】
・木造一戸建てでアスベストが使われている場所と建材の種類
・アスベストが健康や資産価値に与えるリスクと法的義務
・解体やリフォーム前に必要なアスベスト調査の流れと費用目安
木造一戸建てにもアスベストが使われている可能性がある
2006年（平成18年）9月1日以降に着工された建築物であれば、基本的にアスベストは使用されていません。しかし、それ以前に着工された木造一戸建て住宅は、アスベストが使われている可能性があります。
ここでは木造一戸建てにアスベストが使われた背景やアスベストレベル、リスクについて紹介します。
アスベストが使われた背景
木造一戸建てにアスベストが使われていた主な目的は、木造住宅の弱点である「防火性」と「耐久性」の向上です。
木造住宅は火災に弱いため、熱に強く燃えにくいアスベストは、建築基準法で求められる防火性能を満たすための建材として重宝されました。さらに、断熱性や防音性を高める目的で、内装材や断熱材として使用されたケースもあります。
このようにアスベストは優れた性能を持ちながら安価だったため、住宅や工場、ビルなどで幅広く使用されました。
木造一戸建てのアスベストレベル
アスベストのリスクは、解体などにおける粉じんの「飛散しやすさ（発じん性）」によって、以下の3つのレベルに分類されます。
- レベル1：発じん性が著しく高い（例：吹き付けアスベスト）
- レベル2：発じん性が高い（例：保温材、耐火被覆材）
- レベル3：発じん性が比較的低い（例：成形板）
木造一戸建てで使用されているアスベスト含有建材は、ほとんどが「レベル3」に該当します。
レベル3の建材は、アスベストをセメントなどで固めて硬い板状に成形したもので、主に以下の箇所に見られます。
- 屋根：スレート屋根（コロニアル、カラーベストなど）
- 外壁：窯業系サイディング
- 軒裏：ケイ酸カルシウム板（ケイカル板）
これらは硬く成形されているため、通常の使用状態で繊維が飛散するリスクは低いです。ただし、解体やリフォームを行う際は飛散の可能性があるため、適切な対策が求められます。
詳しくは下記の記事で紹介しています。こちらも参考にしてみてください。
木造一戸建てのアスベスト含有リスク
木造一戸建てにアスベストが含まれている場合は、健康リスクだけでなく経済的リスクもあります。それぞれどのような問題があるのか紹介します。
健康リスク
アスベストレベル3の飛散リスクは比較的低いとされています。しかし、経年劣化によるひび割れや欠けが生じると、内部の繊維が露出して飛散するおそれがあります。
飛散した微細なアスベスト繊維を吸い込むと、肺の組織に刺さり、数十年の長い潜伏期間を経て、肺がんや中皮腫、石綿肺といった深刻な健康被害を引き起こしかねません。
特にリフォームや解体工事で建材を破砕する際は、大量の繊維が飛散するため、十分な防じん対策が必要です。
経済的リスク
建物にアスベストが含有されている場合、法律に基づいた厳格な手順での除去・処分が義務付けられています。具体的には通常の解体費用に加え、アスベスト処理面積に応じて、以下の除去・処分費用が上乗せされます。
- 300平方メートル以下 ：2万円～8.5万円
- 300～1,000平方メートル：1.5万円～4.5万円
- 1,000平方メートル以上：1万円～3万円
木造一戸建てでもこれらの費用が加算され、総額が数十万〜百万円以上増加するケースも珍しくありません。
また、アスベストが残存している場合は、不動産売却時に買主への告知義務も発生します。
将来的な除去費用が見込まれるため、不動産の資産価値が低下し、売却価格に影響する可能性も高いでしょう。
木造一戸建てでアスベストが使われている可能性のある箇所
木造一戸建てのアスベストは、外観からは判断しにくい場所に多く使われています。
ここからは国土交通省の資料などを参考に、外装と内装に分けて、特にアスベストが使われている可能性が高い箇所を見てみましょう。
外装
木造一戸建ての外装は、以下の部分でアスベストが使われている場合があります。
- 屋根材
- 外壁材
- 軒裏（軒天）
- 煙突
雨風にさらされる過酷な環境での耐久性が求められる箇所や、高い耐火性が求められる箇所に使われているケースが多いです。
屋根材
屋根材は、木造一戸建てにおいて、もっともアスベストが使用される頻度が高い箇所の一つです。代表的な建材は「化粧スレート（コロニアル、カラーベストなど）」です。
化粧スレートは、セメントにアスベストを混ぜて強度を高めた薄い板状の屋根材で、軽量かつ安価なため、多くの木造住宅で普及しました。
また、一見するとただの瓦に見える「セメント瓦」も、セメントと川砂を混ぜて成形されており、製品によってはアスベストが含まれている可能性があります。
外壁材
外壁材も、火災への備えや、建材の反り・割れを防ぐ目的でアスベストが使用されました。
たとえば「窯業系サイディング」は、セメント質と繊維質を原料とする板状の外壁材ですが、この原料としてアスベストが使用されていました。
また、モルタル外壁などの表面に模様をつける「吹付け仕上げ材（リシンなど）」にも、ひび割れ防止や増粘剤としてアスベストが混入されているケースがあります。
軒裏（軒天）
軒裏（外壁から突き出た屋根の裏側の部分）は、火災のときに窓から噴き出した炎が屋根裏へ燃え広がるのを防ぐため、建築基準法で防火構造が求められる箇所です。
軒裏には、耐火性・耐水性に優れたアスベスト含有の「ケイ酸カルシウム板（ケイカル板）」が天井ボードとして多く使用されました。
煙突
古い木造一戸建てでは、お風呂の釜やストーブの排気用として、アスベストを含んだ「石綿セメント円筒」が使用されていることがあります。熱に強いため、耐熱性が求められる箇所で建材として使われました。
内装
木造一戸建ての内装では、以下の箇所でアスベストが使用されている可能性があります。
- 天井
- 壁
- 床
アスベスト建材は、防火・防水性能が求められる火気・水回り設備周辺や、断熱・吸音性が必要となる居住スペースなど、建物内の広範囲にわたり施工されているケースが見受けられます。
天井
外装の軒裏と同様に、台所や洗面所、風呂場、トイレなどの水回りの天井には、耐火性と耐水性に優れたアスベストを含む「ケイ酸カルシウム板」が使用されている可能性が高いです。
また、古い木造住宅の居室や廊下の天井には、虫食い模様のような穴が開いた「アスベスト含有石膏ボード（ジプトーンなど）」が使われているケースがあります。
さらに、断熱性や吸音性を高める目的で「バーミキュライト吹付け材（ひる石）」が、天井の仕上げ材として使用されている場合もあります。
壁
天井と同様に、台所や風呂場などの水回りの壁材として、アスベストを含んだ「ケイ酸カルシウム板」が使用されていることも少なくありません。
また、聚楽（じゅらく）壁や砂壁、綿壁、繊維壁といった伝統的な塗り壁材に、ひび割れ防止や強度向上のつなぎ材として、アスベストが混入されていた事例もあります。
床
台所や洗面所、トイレといった水回りの床材として使用される「ビニル床タイル」や「Pタイル」などの硬質のプラスチック系タイルにも注意が必要です。
これらのタイルは耐摩耗性や耐久性が求められるため、アスベストが練り込まれている製品が多く製造されていました。
木造一戸建てのアスベストの確認方法
木造一戸建てでアスベストの使用を確認するには、建築年数をチェックしましょう。
労働安全衛生法施行令の改正にともない、2006年（平成18年）9月1日よりあとに着工した建物は、アスベストの使用が全面的に禁じられています。
そのため、建築確認通知書や設計図書などで、着工日が「2006年8月31日以前」である場合、アスベストが使用されている可能性があると考えられます。
ただし、建築年数だけでの判断はあくまで目安に過ぎません。在庫品が使用されたケースや増改築の履歴がある場合など例外もあります。
現在はすべての建築物において、解体工事やリフォーム・改修工事を行う際には、アスベストの有無に関わらず、事前にアスベスト調査を行うことが法律で義務付けられています。
さらに2023年10月1日以降は、アスベスト調査を「建築物石綿含有建材調査者」という国家資格を持つ専門家が行わなければなりません。
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木造一戸建てのアスベスト調査方法
木造一戸建ての解体・改修時に義務付けられているアスベスト調査は、以下の3つのステップで進められます。
1.書面調査
設計図書、建築確認通知書、過去の修繕記録などを確認する工程です。
建物の建築年や使用されている建材の商品名やメーカーなどを調べ、まずは机上でアスベスト含有の可能性を判断します。
2.現地調査（目視調査）
建築物石綿含有建材調査者が現地を訪問して建材の種類や劣化状況を目視で確認します。
書面調査で得た情報との整合性をチェックする工程です。
3.分析調査
書面や目視だけでは「含有なし」と断定できない場合、該当する建材の一部を採取します。
その後、専門の分析機関に送ってアスベストが含まれているかを科学的に分析します。
具体的な調査手順や調査にかかる期間、費用の詳細については、以下の記事でくわしく解説しています。あわせてご覧ください。
アスベストが見つかった場合の対応方法
万が一、事前調査で木造一戸建てにアスベストの含有が確認された場合、状況に応じて以下の3つの工法で対処が行われます。
- 除去工法
アスベストが含有されている建材を、下地から完全に取り除く方法
- 封じ込め工法
アスベスト含有層の表面に薬剤を吹き付け、繊維が飛散しないように固定する方法
- 囲い込み工法
アスベスト含有部分を、板材などの非含有材料で完全に覆い隠し、室内空間と隔離する方法
封じ込めや囲い込みはコストを抑えられますが、アスベスト自体は建物に残存します。そのため、将来的に建物を解体する際には、除去工法が必要です。
前述のとおり、解体や改修前には有資格者による事前調査が義務化されています。もしアスベストが発見された場合は、大気汚染防止法や石綿障害予防規則に基づき、厳格な作業基準を遵守しなければなりません。
具体的には、作業員や近隣住民への健康被害を防ぐため、作業場所をビニールシートで隔離（養生）し、建材を湿らせて飛散を防ぐなど、徹底した管理下で専門業者が除去作業を行います。
また、除去作業を行う際は、自治体への事前の届け出も必要です。
まとめ
2006年9月1日以前に建てられた木造一戸建てには、屋根や外壁、軒裏といった建材にアスベストが含まれているリスクが潜んでいます。
さらに建物の解体や改修工事を行う前には、建築物石綿含有建材調査者による事前調査が法律で義務付けられています。
健康被害を避けて法律を遵守するには、「木造だから大丈夫」と自己判断せず、専門家に相談しましょう。
これから調査や解体工事を予定されている方は、「アスベストジャッジ」へぜひご相談ください。1検体あたり12,000円+税で対応可能で、3営業日で調査可能です。
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