アスベスト(石綿)調査は、2021年から2023年にかけて段階的に義務化されました。これには、アスベストによる健康被害が深刻な社会問題として認識されたことが背景にあります。
また、一定規模以上の解体・改修工事のアスベスト事前調査は、調査結果を報告しなくてはなりません。工事を行う業者や建物の所有者は、適切な対応が求められるため、義務化の背景を知っておきましょう。
今回は、アスベスト調査が義務化された背景や調査の対象範囲、必要な手続き、罰則規定などを解説します。
【この記事で分かること】
・アスベスト調査が義務化された背景
・いつからどんな内容が義務化されたのか
・アスベスト調査・報告義務を怠った場合の罰則
アスベスト調査義務化の詳細
アスベストは過去、多くの建築物に使用されてきましたが、深刻な健康被害が社会問題となり、近年では調査の義務化が実施されました。
ここでは、アスベスト調査が義務化された背景や法整備の流れについて紹介します。
アスベスト調査が義務化された背景
アスベストは耐熱性・耐久性に優れ、かつては多くの建築物に使用されてきました。
しかし、飛散したアスベストの繊維を吸入することによって、肺がんや悪性中皮腫などの深刻な健康被害を引き起こすことが判明しています。そのため、アスベストの飛散を未然に防ぐ必要性が高まり、法整備が進められました。
詳細は後述しますが、2021年4月1日から全ての建材における解体・改修工事前のアスベスト調査が、2022年には事前調査の結果を電子システムによる報告が義務化されました。
さらに2023年10月1日からは、調査の質を確保するために「石綿含有建材調査者」などの有資格者による実施が義務づけられ、無資格者による調査が法律で禁止されています。
アスベストの危険性
アスベストは非常に細かい繊維状で、空気中に浮遊しやすい性質を持つ鉱物です。
アスベストを吸入すると、繊維が肺の内部に蓄積され、数十年という長い潜伏期間を経て、肺がんや悪性中皮腫、アスベスト肺(石綿肺)などを引き起こす可能性があります。
これらの健康被害を防ぐため、建築物内のアスベストを正しく管理し、必要に応じて除去することが強く求められています。
いつからどんな内容が義務化された?
アスベスト調査の義務化は、以下のように段階的に法整備が進められてきました。
- 2021年|全ての建材における解体・改修工事前のアスベスト調査の義務化
- 2022年|アスベスト事前調査結果の電子報告の義務化
- 2023年|有資格者による事前調査の義務化
それぞれの内容について、詳しく見てみましょう。
2021年|全ての建材における解体・改修工事前のアスベスト調査の義務化
2021年4月1日より、建築物の解体や改修、リフォームといった工事を行う際は、すべての建材について、設計図書などの資料や目視によりアスベストの有無を調べる必要があります。
さらに、アスベストが含まれている可能性がある場合は、サンプリングと分析調査を実施しなければなりません。調査結果は書面で記録し、最低3年間の保存が義務付けられています。
2022年|アスベスト事前調査結果の電子報告の義務化
2022年4月1日からは、一定の規模以上の解体・改修工事において、事前調査の結果を電子システムで報告することが義務化されました。
対象となるのは、解体工事の場合は延べ床面積が80㎡以上、改修工事の場合は請負金額が税込100万円以上の工事です。
これらの工事は、実施する前にアスベストの有無を確認する調査を行い、その結果を所轄の労働基準監督署や自治体へ報告しなければなりません。
報告手続きは、原則として国が整備した電子申請システム「石綿事前調査結果報告システム」を通じて行います。
この制度によって行政による把握と監視体制の整備が進み、アスベストの飛散リスクをより確実に管理できる体制が整えられました。
2023年|有資格者による事前調査の義務化
2023年10月1日より、アスベストに関する事前調査を行う際は、資格を有する専門家が実施することが法律で義務付けられました。
対象となる資格には「建築物石綿含有建材調査者」や、同等の専門的知識を有すると認められた資格が含まれます。
専門家が実施することで調査の質が向上し、現場でのアスベスト管理がより安全かつ的確に実施される体制が確立されました。
アスベスト調査の義務化は誰に課されるのか
アスベスト調査の義務化は、主に解体・改修工事を行う「元請業者」に課されています。
元請業者は、工事に着手する前にアスベストの有無を確認する責任を負い、適切な資格を持つ調査者を確保して、正確かつ適法な調査を実施しなければなりません。
また、建物の所有者(発注者)も調査に必要な設計図書などの資料を提供したり、調査にかかる費用を負担したりするなど、一定の協力義務があります。
これらの義務を怠った場合、行政指導や罰則が科されるケースもあるため、関係者全員が法令を遵守し、適切な調査を行いましょう。
アスベスト調査に必要な資格は、以下の表をご覧ください。
資格名 | 備考 | 認定機関 |
---|---|---|
建築物石綿含有建材調査者 | 大きく分けて下記のの3種類がある 「一般建築物石綿含有建材調査者」 「特定建築物石綿含有建材調査者」 「一戸建て等石綿含有建材調査者」 | 厚生労働省 |
アスベスト診断士 | 2023年9月30日以前に日本アスベスト調査診断協会に登録された者は、引き続き調査の実施が可能 | 一般社団法人JATI協会 |
アスベスト調査・報告義務を怠った場合の罰則
解体・改修工事前のアスベスト調査と結果報告を怠った場合には、大気汚染防止法に基づいて、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
第十八条の十五 建築物等を解体し、改造し、又は補修する作業を伴う建設工事(以下「解体等工事」という。)の元請業者(発注者(解体等工事の注文者で、他の者から請け負つた解体等工事の注文者以外のものをいう。以下同じ。)から直接解体等工事を請け負つた者をいう。以下同じ。)は、当該解体等工事が特定工事に該当するか否かについて、設計図書その他の書面による調査、特定建築材料の有無の目視による調査その他の環境省令で定める方法による調査を行うとともに、環境省令で定めるところにより、当該解体等工事の発注者に対し、次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない。
6 解体等工事の元請業者又は自主施工者は、第一項又は第四項の規定による調査を行つたときは、遅滞なく、環境省令で定めるところにより、当該調査の結果を都道府県知事に報告しなければならない。
第三十五条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
四 第十八条の十五第六項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
引用:大気汚染防止法 | e-Gov 法令検索
特に近年は、アスベストによる健康被害の深刻さを背景に、関連法令違反に対する行政の監視体制が強化されています。
例えば、2022年7月には東京労働局が、同年8月には大阪労働局が、それぞれアスベスト調査を実施せずに工事を行った業者を書類送検した事例を公表しました。
これらの事例からも分かるように、アスベスト調査の未実施や不適切な管理対応は厳しく取り締まられます。関係者は法令を十分に理解し、適切な対応を徹底しましょう。
義務化されたアスベスト調査についてよくある質問
アスベスト調査の義務化により「工事に着手する前の対応が複雑になった」と感じる事業者も多いでしょう。
ここからは、よくある質問に回答する形で、調査や報告の流れ、必要な準備についてわかりやすく解説していきます。
アスベスト調査・報告の流れは?
アスベスト調査・報告の一般的な流れは、以下のとおりです。
1.書面調査
最初に行うのが、建築物に関する設計図書や竣工図、仕様書などの文書を用いた「書面調査」です。
過去に使用された建材の種類や年代から、アスベストが含まれている可能性がある箇所を特定します。
2.目視調査
次に行うのが、現地に赴いて実物を確認する「目視調査」です。
壁材や天井材、床材などの表面状態を直接確認し、アスベスト含有が疑われる建材を洗い出します。
疑わしい建材がある場合には、より精密な調査として「分析調査」が必要となります。
3.分析調査・みなし判定
「分析調査」では、アスベストが含まれている可能性がある建材のサンプルを採取し、専門の検査機関にて成分を分析します。
一方で、分析を省略し、アスベスト含有と見なして対処する「みなし判定」も認められています。
4.書類報告
調査の結果は、所定の様式に従って報告書としてまとめ、労働基準監督署や都道府県などの関係機関に電子申請で提出します。
また、作成した報告書は現場にも備え付け、作業者や関係者が閲覧できる状態にしておきましょう。
アスベスト調査が不要なケースはありますか?
明らかにアスベストの飛散リスクがない作業の場合、アスベスト調査は不要です。
例えば、木材や金属、ガラスなど、アスベスト非含有素材のみを扱う作業や畳・電球の撤去作業(周辺を損傷しない場合)などは対象外となります。
また、釘抜き・釘打ちなどの極めて軽微な損傷にとどまる作業や、既存の塗装を剥がさずに行う重ね塗り塗装、建材の追加作業なども調査義務がありません。
エアコン工事もアスベスト調査の対象になりますか?
エアコンの設置や取り外し、移設工事も調査対象に含まれます。
エアコン本体や配管ダクト、壁の中、天井など、アスベストが使用される可能性がある箇所は、すべて調査の対象です。
ただし、2006年9月1日以降に着工された建物は、アスベストの使用が原則禁止されているため、調査義務が免除されます。
また、既存の配管穴を流用する場合や、室外機の交換・移設のように建材を損傷しない作業であれば、調査は不要です。
アスベスト調査にはどのくらいの費用がかかりますか?
アスベスト調査にかかる費用は、調査内容や規模によって大きく異なります。
書面調査(設計図書や仕様書の確認)のみの場合は、一般的に2〜3万円が相場です。現場での目視調査を行う場合は、約2〜5万円の費用が必要になります。さらに、疑いのある建材からサンプルを採取し、専門機関での分析調査を行う場合は、1検体あたり1万5,000円から5万円程度の費用が発生します。
詳しい調査費用については、以下の記事もご参照ください。
アスベスト調査に使える補助金はありますか?
アスベスト調査や除去工事に対しては、国や地方自治体による補助金制度が設けられています。
例えば、国の制度では、吹付けアスベストなどの使用が疑われる建築物を対象に、1棟あたり最大25万円の調査費用の補助金が提供されます。
地方自治体による補助制度については、事前にお住まいの自治体の環境部門や建築担当窓口にご確認ください。
アスベスト調査を依頼する際の業者選びのポイントはありますか?
アスベスト調査を安全かつ確実に行うためには、信頼できる業者選びが重要です。
具体的には、以下のポイントを参考にしましょう。
- 資格の有無
「建築物石綿含有建材調査者」などの適切な資格を持つ技術者が在籍しているか確認しましょう。
- 報告書の作成実績
公的機関に受理された報告書の作成実績がある業者は、最新の法規制や基準に精通している可能性が高いです。
- 分析結果の迅速性
工期に影響を与えないためにも、迅速な分析結果を提供できる業者を選ぶことが望ましいです。
これらを考慮して業者を選ぶと、調査の信頼性が高まり、工事自体も安全かつスムーズに進められます。
まとめ
アスベストはかつて数多くの建築物に使用されていましたが、吸入による健康リスクが知られ、法整備により解体・改修工事時の事前調査が義務化されました。
2021年にはすべての建材を対象とした調査、2022年には調査結果の電子報告、2023年には有資格者による調査が段階的に義務化され、違反時には罰則が科されます。アスベストの調査を考えているのなら、専門家に依頼するのがおすすめです。
「アスベストジャッジ」は、全国エリアでアスベスト調査・分析を実施している専門業者です。1検体あたり14,000円+税、最短3営業日で納品可能です。静岡県中部エリアを中心に、現地での採取や相談にも対応しています。
初めて調査を行う方でも、現場経験を持つスタッフが丁寧にサポートいたしますので「何から始めればいいか分からない」とお悩みの方もお気軽にご相談ください。